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弁護士加藤英典のブログ

埼玉県所沢市の弁護士のブログです。

刑事拘禁制度改革に関する勉強会

※このエントリーは、『刑事拘禁制度改革実現本部ニュース』40号(日本弁護士連合会刑事拘禁制度改革実現本部編)に寄稿した文章をブログ用に編集したものです。

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日弁連刑事拘禁制度改革実現本部は、2017年3月6日、村井敏邦氏(一橋大学名誉教授)と赤池一将氏(龍谷大学法学部法律学科教授)をお招きして刑罰制度改革に関する勉強会を行いました。
昨年10月に福井市で開かれた人権擁護大会において、日弁連は「死刑制度の廃止を含む刑罰制度全体の改革を求める宣言」を採択しました。同宣言では、刑罰制度全体を罪を犯した人の真の改善更生と社会復帰を志向するものへと改革することを求め、具体的には懲役刑と禁錮刑を拘禁刑として一元化し、刑務所における強制労働を廃止して賃金制を採用すること等を宣言しています。
その後、刑罰制度改革に関しては、法務省側にも動きがありました。2016年12月、法務省内の「若年者に対する刑事法制の在り方に関する勉強会」は、取りまとめ報告書を公表しました。同報告書は、少年法の適用年齢を18歳未満に引下げることに関して賛否両論を併記し、若年受刑者の改善更生という観点から自由刑の単一化も検討されています。ただし、ここでの単一化論は、受刑者に刑務作業を含めた各種の矯正処遇を義務づけるものです。
さらに、法務大臣は、2017年2月9日、犯罪者に対する処遇を一層充実させるための刑事の実体法及び手続法の整備のあり方等について法制審議会に諮問しました。
刑事拘禁制度改革実本部では、このような昨今の情勢を踏まえて勉強会を行いました。

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赤池氏は、「勉強会」の報告書を批判的に検討し、自由刑の単一化論を振返ります。
最近では川出敏裕氏(東京大学大学院法学政治研究科教授)が、「自由刑における矯正処遇の法的位置づけについて」(2016年)等で自由刑の単一化論を展開しています。川出氏は、「勉強会」のアドバイザーです。
2000年改正の少年法では、少年が16歳に達するまでの間は少年院で懲役刑・禁錮刑の執行をすることができ、その少年には矯正教育を授ける旨の規定が設けられました(少年法56条3項)。これによって、現行刑法の下で懲役刑と刑務作業を切り話されることになりました。また、禁錮刑受刑者も、懲役刑受刑者と同様に矯正教育が行われることになり、刑の執行の場面において懲役刑と禁錮刑の区別がなくなりました。この改正は、限られた場面とはいえ、現行刑法の懲役・禁錮刑の内容と分離して、矯正施設における処遇内容を定めたという意義があります。
その後、刑事被収容者処遇法では、この考え方を一般化し、矯正処遇として、刑務作業に加えて、改善指導と教科指導をあげ(同法84条1項)、刑法に根拠規定のない改善指導と教科指導の根拠規定を置きました(同法103条、104条)。遵守事項に違反した場合には、懲罰の対象になり得ます。川出氏としては、刑法に根拠がない矯正処遇を受刑者に義務づけることが許されるのは、懲役刑・禁錮刑の目的には改善更生による社会復帰が含まれており、目的達成に必要な範囲で受刑者の権利を制限し、義務を課すことが許されるからというのです。
川出氏の考え方によれば、拘置とは、身柄の収容だけではなく、義務づけられた作業・指導という広義の処遇が含まれることになります。しかし、これは、マンデラ・ルール等の国際的な潮流とは異質の考え方です。

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村井氏は、法務大臣の諮問は、少年法適用年齢引き下げと犯罪者の処遇という本来は別個の問題を一緒にしていると指摘します。
そもそも自由刑の単一化論の基礎は、刑務作業の強制の禁止にあります。受刑者に強制労働を課すことは、自由権規約8条3項(a)に違反します。同項(b)では、一定の場合には重労働を課すことを認めているのであり、刑罰としての強制労働を認めているのではありません。
矯正処遇を受刑者に強制することは、社会復帰を積極的に推し進めるために援助の機会を提供する考え方とは相容れません。受刑者の自主性を重視する方向に転換すべきです。
さらに、川出氏の論文は、形式的な法文解釈に終始しており、刑務作業や矯正処遇に対する基本的な考え方が存在しない等と厳しく批判しました。

講演後は意見交換が行われ、今後の法制審議会で懲役刑と禁錮刑を拘禁刑として一元化し、刑務所における強制労働を廃止するという日弁連の意見をどのように反映させていくかが議論されました。委員からは、取りまとめの報告書の中に見られる検察官の権限拡大を懸念する指摘もありました。村井氏と赤池氏からは、法務省の動きに対して、あるべき方向性と逆方向に事が進まないように日弁連が奮起することを促され、私達に大きな課題が課せられました。